新潟家庭裁判所 昭和46年(家)336号 審判 1971年2月03日
申立人 山下薫(仮名) 外一名
主文
申立人らの氏を「篠崎」に変更することを許可する。
理由
本件申立の趣旨は、
申立人山下薫は、昭和三八年一一月八日篠崎照夫同人妻さとと養子縁組をなして篠崎照夫戸籍に入籍し、以来篠崎姓を称して養父照夫が代表取締役となつて経営する有限会社○○製作所の役員として、また昭和四五年六月一三日照夫が死亡後はその地位を承継して、同製作所の経営に従事してきた。そしてこの間、昭和三九年一月二九日申立人らは夫篠崎薫の氏を称する婚姻をなした。
三 ところが養母さとは申立人薫に対する養子縁組無効確認事件を新潟地方裁判所に提起し、右訴訟事件は同地方裁判所において新潟家庭裁判所の調停に付され、昭和四五年(家イ)第三〇〇号事件として同家庭裁判所に係属した。そして右調停手続において養母さちは申立人薫との養子縁組を追認したうえ、改めて両者は調停により離縁する旨の調停が成立した。このような合意となつたのは申立人薫が篠崎姓を称することが同人の社会的経済的生活において必須であり、亡養父照夫との縁組を維持することによつて養母さととの縁組解消による影響を受けぬことを考慮しての結果であつた。
ところが右さとから右調停に基く離縁の届出がなされたところ、男立人薫は右離縁により実方山下姓に復氏するとした戸籍上の取扱いがなされ申立人らは山下姓を称する結果となつている。
申立人らが篠崎姓から山下姓となつたのは以上の経過によるものであるうえ、申立人薫は養母さととの離縁後も○○製作所の前代表取締役篠崎照夫の養子であり、かつ同製作所の代表者として、その経済的社会的活動において篠崎姓を称してきたものであるから、これを変えるときには取引関係において重大な影響を受けるので従来の篠崎姓を称したく本件申立に及ぶ。
ということにある。
よつて審案するに、山下薫、筆頭者篠崎照夫の各戸籍謄本に当庁昭和四五年(家イ)第三〇〇号調停事件記録を併せみると、申立の趣旨の事実が認められ、このような戸籍上の取扱いがなされたのは戸籍事務管掌者において養子が生存養親とのみ離縁した場合の戸籍の取扱方について養父母の一方が婚姻中に死亡した後、同氏の養子がその生存養親とのみ離縁しても離縁の効力は死亡養親に及ばないとしながらも養子は生存養親との離縁によつて直ちに縁組前の氏に復するとする法務府民事局長の通達に依拠し養子薫が現在なお死亡養親照夫の氏を称することを希望するに拘らずこれを縁組前の戸籍に復せしめたうえ薫、とし子夫婦につき山下姓の新戸籍を編製したものと推認されるところ、この現在戸籍の取扱いについては、理論上は養子は生存養親と離縁しただけでは当然には縁組前の氏に復さないと考えられるためいささか疑問はあるものの、右の取扱方に関する通達に従つてなされた申立人らの復氏による氏の変更はその社会的経済的生活において影響するところが大なることは容易に推察されるし、右戸籍上の取扱いを論じ合うことによつて惹起される時間経過の不利益を申立人らに負わせるは相当でなく、戸籍法一〇七条による氏の変更を認め、申立人らの氏を山下から従前の篠崎姓に変更を許可することもやむを得ないと考える。
よつて主文のとおり審判する。
(家事審判官 井野場明子)